どんなのでも良いと言っていたけど

どんなのでも良いと言っていたけど

皆さんごきげんよう。

どんな品物でも、人それぞれ価値の置き方は違います。私はハンコ屋なので当然ハンコについては重い価値を認めているのですが、ご来店されるお客さん全てがそういう方ばかりではありません。

先日来店してくださった女性の方。
齢90を過ぎた母の実印が必要だけど、でももうすぐあの世に行くからどんなものでも良い、何だっていいので一番安いのが欲しい、と言うことでした。

「まあそういわずに、実印はその人そのもの、大切なお母さんのハンコはそれなりの物にしましょうよ。それに私も技術でご飯を食べている身なので、クシャクシャで適当なものを作って安く売ると言うのはしてないんです。」と説明しましたが「自分の持っているハンコは小さいもので、文字も捏ねくったような字のハンコ。良いと思わない、そんなものはどうでもいい。」とおっしゃる。
「じゃあ、私も一生懸命作りますので、これで価値をひっくり返してください。」と笑顔ながらも強く言うと
「そこまで言うならお願いしようか。」と柘植の実印をご注文下さいました。
作成に入る前にはいつも、お客さんの前で、文字の形の見本を書き乍ら、好き嫌いを聞いて書体を決め、後はその方の雰囲気から感じたものを味付けして作ります。今回もそんな風にして、その方の好みに合いそうな文字の風合いを想像して仕上げました。

後日

受け取りに来てくれた時、出来上がりの印影を見て「わーこれ私の好きな字!カワイイ!こんなになるがや!」と大変喜んでくれました。「このハンコとても気に入ったので、入れるケースをもっと可愛いのに変えたい。これ、母の後は私が銀行印か認印として引き継ぐことにする。」といって通常付けているケースとは別に、もっと上質のケースを選んで、追加購入してくださいました。
更に後日、当店の近所のお姉さんがやって来て「うちのオバが先日ここで良いハンコを作ってもらったようで、すごく喜んでました。ありがとう。」とお礼を言いに来てくれました。
「お姉さんとこの御親戚やったんですね。ちゃんと作って良かった。」
「そう、とりあえず買ってくると言って出掛けたけど、小谷さんとこに行くとは思ってなかった。ウキウキで帰って来たで!」
「それは嬉しいすね。]

とまあ、こういう出来事がありました。何でも誠意を持ってきちんとした仕事をしていれば、伝わることがあるんだなとしみじみ思った次第です。

居合の師曰く「何でも人間形成の修行、手を抜かずちゃんとやれ。」

ではまた。
DSC_0909.JPG